心緒 1


「美鈴、声、聞かせて」
 美鈴の頬を両手で挟み、そう乞うた。
 美鈴は淫らな熱に浮かされ、濡れそぼった瞳をハッとしたように開いた。一度二度大きく瞬きをする。俺がふっと眼を細めると、美鈴は落ちつかなげに視線をそらす。上気していた頬がさらに朱に染まる。
 美鈴の口がゆるりと薄く開いた。俺の名を口にしようとしたらしいが、発声には至らなかった。短い息だけが漏れる。美鈴の声を聞きたかったが、名を呼ばれるだけでは物足りない。
 ちゅっとリップ音をたてて、軽く口づけた。
「……っ」
 美鈴は目をぱちくりとさせる。少し驚いたようだがその後すぐに恥じらって目を伏せがちにする。
 声を聞きたいと言いながら、軽いキスだけでは終われず、ついつい繰り返し美鈴の唇を味わってしまう。薄く開かれた唇から物欲しげに舌が伸びてくる。美鈴は眼を閉じ、繰り返されるキスに酔いしれていく。
「ふっ、ぁ、……ん……っ」
 くぐもった声が息継ぎの合間に漏れる。美鈴はうっすらと目を開き、だがすぐに瞼を落として、快楽に身を任せる。
 最初は戸惑いがちに応えていた美鈴だが、そのうち自らも積極的に舌を動かし、俺の舌に絡みついてくる。舌の裏をつつき、くすぐるように舐めてやると、美鈴は体をよじらせる。全身とろけきって力がはいらなくなってるようだ。俺の首に巻きつけていた両腕がほどけて落ちる。口づけで繋がっているだけでは不安なのか、ほどいた腕を片方だけかろうじて持ち上げ、俺の肩に添えてくる。
 名残り惜しくはあったが唇を離した。唇を離す直前、下唇を甘噛みし、唇を濡らす唾液を舐めとった。美鈴は少し驚いたように閉じていた瞳を開けた。潤んだ瞳がなまめかしい。
「聞かせて、美鈴。どうして欲しい?」
「……え?」
「どうされたら気持ちいい? 美鈴がして欲しいようにしたい」
「え、あの……」
 俺は上半身を起こし、パジャマの上着を脱いだ。裸体を晒すと、美鈴は羞恥に頬を染めて目線をそらす。見慣れてるだろうに……しかも上半身だけだというのに、美鈴はいまだに初なところがある。恥ずかしがり屋なのは美鈴の性格で、そこが美鈴の可愛いところでもあるから、矯正したいとは思わない。
 だが美鈴は大胆な一面もある。おそらく本人は無意識にしているのだろうが。
 再び美鈴に覆いかぶさり、頬を撫ぜる。美鈴は息をつめて俺の愛撫を待っているようだ。頬から喉へと指を這わせていくと、美鈴は甘ったるい声を漏らして身悶える。皮膚の表面をそうっとなぞるだけでは足りないらしい。切迫した声で訴えてくる。
「維月さん……っ」
 美鈴は俺の下で縮こまり、もじもじと腿を擦り合わせている。
「なに?」と問うと、美鈴はちょっと恨めしげな目で俺を睨んだ。潤んだ双眸に険しさはない。官能に濡れた美鈴の瞳は、俺の欲情を煽るばかりだ。
 美鈴の欲求はわかっている。いますぐ美鈴の望むままにしてやってもいい。だが今日は、……──
「ちゃんと口に出して言ってくれないとわからないよ、美鈴?」
「……っ」
 意地悪をしたいわけじゃないが、美鈴の差し迫ったようにまなざしに苛虐心がくすぐられる。
「それとも、やっぱり今日は何もしない方がいい?」
 そう言って身を引き、上体を起こす。だがそれはすぐに引き留められた。「待って」と、美鈴があわてた声をあげ、俺の首に両腕を巻きつけてきた。再び、美鈴の上に覆いかぶさる大勢になる。
 ベッドが軋んだ。
 その音にすら美鈴ははにかみを覚えるようだ。熱帯びた目は落ち着かなげに泳いでいる。
「……維月さん、あの」
「うん?」
「キス、してほしい。もっと、たくさん」
 美鈴の耳たぶを舐める。それから耳の裏、首、舌を這わせて美鈴を追い詰めていく。
「どこに? どんな風に?」
 低く問う。美鈴は逡巡を払い、美鈴は小声で応えた。
「口、だけじゃなく、て、…………体中に、たくさん……気持ちよくして、ほしい……」
 乱れた息のあいま、途切れ途切れに言葉を紡ぐ美鈴がいじらしい。求めに応じて、体中にキスを落とした。パジャマの前をはだけさせ、体のラインをなぞるように、肩から鎖骨、みぞおち、腰、そして臍へ唇を這わせ、時には舌先でくすぐった。美鈴はもどかしげな声をもらして身をよじらせる。肝心な場所へ刺激を与えず、焦らしに焦らした。
「や、ぅ……っ、んっ、維月さ、ん……っ」
 美鈴はしどけなく身をくねらせる。
 これ以上焦らすのはさすがに可哀想かな。
 俺は内心で苦笑した。
 可哀想なのは俺も同様だ。美鈴を求めて、脊髄に痺れが走り、下半身が痛いほど熱くなってくる。
 美鈴の頬を柔らかくなでてやり、そのまま口づけた。美鈴の舌が俺の唇をつついて開かせる。美鈴から舌を差し出してくるのは珍しい。迎え入れてやると、美鈴はけなげに舌を動かし、俺の舌をとらえる。互いの息を奪い合うように深い口づけを繰り返した。
 溢れ、混じり合った唾液を互いに飲み、それでも間に合わず口の端から透明な液がこぼれる。
「ふっ、ん……ぅ、あ……んっ」
 息継ぎの間に漏れる美鈴のあえぎ声は官能に染められ、高まりを知らせてくれる。
 口づけながら美鈴のパジャマを脱がせてやる。美鈴も心得たもので俺の手の言うなりに体を動かし、一糸まとわぬ姿になった。
 重ねあった素肌の感触が心地好い。
 ボディーソープは同じものを使ったはずなのに、なぜだろうか、美鈴は甘い香りがする。とろけた蜜のような。
 とくに感じやすい首に舌を這わせて、時折強く吸う。噛みつきたい衝動に駆られたが甘噛みにとどめた。美鈴は耳も弱い。舐め、濡れたそこに息を吹きかけると、「ひゃん」と可愛らしい啼き声をあげる。それから顔の輪郭をなぞるようにして唇を這わせて、再び唇を重ねた。
「ん、ふ……ぅ」
 角度を変え、存分に口内を味わった。
「ふ……っ」
 一度、唇を離した。美鈴の胸が荒れた呼気に合わせて上下している。さすがに俺も息が上がり、額に僅かに汗がにじんできていた。
 美鈴のまなじりから涙が伝っていた。片方を親指の腹で拭ってやり、もう片方は舌で拭ってやる。
 美鈴はくすぐったそうに身をすくませたが、気持ちよかったのか、口元に微笑が浮かんでいた。
 再び唇を重ねる。幾度食んでも飽くことのない、美鈴の朱唇。美鈴は防戦一方となった。
 その後すぐに体にも愛撫を与えてやる。
 ゆたかな胸を揉みしだき、その頂を親指の腹で強く押す。すでに堅くしこっているそれは、さらなる刺激を求めるように勃ちあがり、存在を主張している。抓み、挟んで、弄ぶ。美鈴はその度に甘い嬌声をあげ、腰を浮かせた。
 美鈴はキスの合間にくぐもった声をあげる。「維月さん」と名だけを口にする。濡れそぼった瞳はより強い快楽を求めていた。美鈴の口からもれる嬌声はどんどん淫らになっていく。
「お、ねが、い……っ」
「ん?」
 喉をそらせ、美鈴は喘ぐ。晒された喉に噛みつくようにキスをすると、美鈴は湿った吐息をこぼした。ひどく艶めかしい。
「い、つきさ、……っ、ふ、ぅ……あっ、あ、やぁ……っ」
 臍のまわりをやわやわと撫ぜてやると、美鈴はもどかしげに腰をくねらせる。たまらず脚を閉じようとするが、この時すでに俺の下半身が割って入っていて、美鈴の両脚は閉じようにも閉じられない。
「維月さん、もう……っ」
「うん、なに?」
「も……っと、ちゃんと、触って……っ」
 せつなげな美鈴の訴えを得て、俺は手をさらに下へと這わせる。だが、肝心なところを避け、太腿の内側を揉みながらなぜ、膝裏へ指を進めた。美鈴は首も弱いが、膝裏も感じやすい。案の定、美鈴は脚をびくりと震わせた。
 何度も肌を重ねてきたのだ。美鈴が感じやすいところは分かっている。だが、抱くたびにまだ知りたいと思う。まだ見ぬ美鈴を見たい。隅々まで探したくなる。
「あぁ……っ」
 堅くっている胸の頂を口に含み、甘く噛む。美鈴は悲鳴ともつかない声をあげた。
 口の中で赤い実を丹念に転がした。舌の先で押し潰し、吸い上げ、ねぶる。そのたびに美鈴の腰がびくびくと跳ねて、憐れなほどに身悶える。むろん、その間も太腿や臀部への愛撫は怠らない。
 美鈴は快楽に溺れて息も絶え絶えだ。口の端から唾液が漏れ、それを拭い隠す余裕もない。
 口の端から流れる唾液を舐めとってやる。短く吐かれた息はいかにも苦しげで、ついばむだけの軽いキスを与えた。
「維月さ……、もう、……あの」
 美鈴の双眸が羞恥に潤む。しばしの逡巡。先を促すように再び軽いキスを落とす。
「キスだけじゃ、も……足りない、から……」
 消え入りそうな声で美鈴は言う。けれどさすがに恥ずかしさが極まって最後までは口にできないようた。
「ちゃんとしてほしい?」
 俺が促せば、美鈴は素直に頷いた。
「さっきも言ったけど、美鈴の声が聞きたい」
「……それ、は……」
「声、我慢しないで。感じてるって、声で教えてほしい」
「……っ」
 太腿を撫でていた指を脚の付け根へ、そして蒸れた茂みの中へと移動させる。すでに蜜で溢れたそこは俺の侵入を待ちかねているようだった。割れ目を中指でなぞると美鈴は苦しげに眉宇を寄せた。
「美鈴」
「ぅ、ふっ、んんっ」
 美鈴はほとんど無意識に声を押し殺している。口に手を当て、喘ぎ声をこらえる。
 下の方の"口"は素直すぎるほど素直に反応するのにと、内心で苦笑する。そこが美鈴の可愛いところでもある。
 すでに十分すぎるほどに潤っているそこに指をさしいれると、それだけで美鈴は腰を跳ねさせた。
 ぬかるみの奥、蠕動する襞を撫でるように指を動かし、蜜を掻きだしていく。とろとろと溢れた蜜が太腿を伝って落ち、シーツにシミをつくっていく。指一本だけでは足りないようだ。指を増やし、さらに激しく膣奥を掻きまわした。ねばついた水音が寝室に響く。
「ふぁっ……あ、ああっ、やぁっ、ああっ」
 美鈴はいやいやと首を左右に振る。もう喘ぎ声を止められないようだ。
「ここがいい?」
 わざとそんなことを訊いてやる。
 指をすこし上に移動させ、蜜の中で膨らんでいる実を軽く抓んだ。
「……あ、んっ!」
 美鈴の腰がまた跳ねる。
 美鈴の耳元に顔を寄せて、もう一度、ここがいいのかと囁く。
「……っ、いい……っ」
「ん?」
「きもち、いい」
 喘ぎ喘ぎ、美鈴は告白した。よほど恥ずかしいのか、耳まで赤くなってる。その耳たぶを舐め、甘噛みをする。
 ぬかるみの中に沈めた指を絶え間なく動かして美鈴の快楽をさらに高めていく。膨らんだ実を傷つけないよう、だが強く愛撫する。
 美鈴は全身を戦慄かせ、喉を反らせてあられもない声を上げ続けた。時折、助けを乞うように俺の名を呼び、それには口づけで応えた。
 蕩けきった美鈴の中は熱く、掻きだしても掻きだしても蜜が溢れてくる。
「い、つき、さ、……ああっ、も、も……っ、イ……き、そ……っ」
 涙目になって美鈴は訴える。
 淫らなその様を、美しいと思った。
 愛液に溢れたそこをさらに深く、抉るようにして刺激を与える。膨らんだ快楽の実を執拗にこねまわした。やがて、……――
「んっ、ああぁ……っ!」
 美鈴は絶頂に達し、喉をそらし、艶めいた声をあげた。